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YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCE
SPELLBOUND
73
スペルバウンド (2012)

全13曲中10曲がインストゥルメンタル・ナンバーという、ソロ・デビュー作を思わせるほどにインスト比率を高めたアルバム。しかも、3曲のヴォーカル・ナンバーも全てイングヴェイ自身で歌い、その他の楽器も全てイングヴェイが担当(Drは打ち込みがメインと思われる)しており、プロデュースやアレンジも自身で手掛けた、文字通り完全な「ソロ・アルバム」となっている(にもかかわらずなぜかバンド名義なのはこれいかに)。ミックスやエンジニアリングにはかろうじて共同作業者のクレジットがあるが、限りなく「一人で作る」ことを主眼においた作品と言えるだろう。「PERPETUAL FLAME」のボツ曲が半数を占めていた前作に比べると楽曲の平均点は上がっており、イングヴェイのギター・プレイのファンであればそれなりに楽しめるかもしれない。ただ、イングヴェイ自身によるヴォーカルは、ブルージーな#3はともかく、メタリックな#4、#8はやはり専任シンガーで聴きたいというのが本音。総て一人でやるこのやり方がイングヴェイにとっては一番ストレスなく制作でき、一番自分の懐に入ってくる金額も大きくなる理想的なアプローチなのだろう。ただ、個人的にはたまにこういう作品があってもいいが、ずっとこれが続くのであればさすがにちょっとついていけない…。

YNGWIE MALMSTEEN
RELENTLESS
69
リレントレス (2010)

#1、#3、#5、#7、#9、#11、#14と、その間に挟まれるような形で配された歌モノを除く半数の楽曲がインストゥルメンタルという、彼のアルバムとしてはありそうで(?)なかった変則的な作品。Vo入りの曲を歌っているのは前作に引き続きティム"リッパー"オーウェンズだが(#4はイングヴェイによるVo曲)、インタビューによるとティムは本作については「何も知らない」そうで、本作に収録されているVo入りの楽曲は前作制作時のアウトテイクと思われる。そのため当然ながら少なくともヴォーカル曲のクオリティは前作に及ばず、これほど歌メロにフックのないイングヴェイのアルバムは初めて。音質についてはこれまでも常人には理解しがたい「イングヴェイ・クオリティ」だったが、さらに本作においては曲ごとのサウンドにバラつきがあり、そういう意味でもまるでデモ音源集のよう。イングヴェイはこれまでもレコーディングにおいてはベースもプレイしていたが、本作では一部キーボードもプレイするなど、極限までギャラ/制作費をケチって制作されたアルバムというのが本作の印象。そして制作費の少なさを埋め合わせるかのようにイングヴェイの音数は多く、インスト曲が多いこともあってまさに「弾きまくり」状態。イングヴェイの速弾きさえたっぷり聴ければいい、と思っている人にはそれなりに聴きごたえがあるかもしれないが…。これほどお粗末な「音源の寄せ集め」でさえ天才的な才能の残滓は随所で感じられるだけに、色々な意味で非常に残念な作品である。

YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCE
PERPETUAL FLAME
78
パーペチュアル・フレイム (2008)

自身のレーベル「RIGING FORCE RECORDS」からのリリース第一弾となる本作最大の話題は、やはり元JUDAS PRIEST〜ICED EARTHのティム"リッパー"オーウェンズ(Vo)の加入だろう。強力なメタル・シャウターであるリッパーの加入、そしてリリース前のインタビューにおける「今までのアルバムが帆船だとしたら、今回のアルバムは原子力潜水艦だ」などといった発言から、ひょっとするとイングヴェイの音楽がこれまでよりメタリックになるのか?という予想、あるいは期待を持って聴いてみたが…やっぱりというか「ALCHEMY」以降のギター・オリエンテッドないつも通りのイングヴェイでした(苦笑)。クラシカルなイントロから疾走に転じる#1から「I'll See The Light Tonight」っぽいリフで始まる#2の流れはなかなか緊張感があっていいのだが、#7、#8とインストが立て続いた後、イングヴェイ自身がVoを執るバラード#9に至る頃にはすっかりダレまくり。サウンドは近作では比較的マシな感じにまとまっているし、楽曲も前作よりは多少練られた跡があるが、やはりリッパーの強力ではあるが大味なVoはイングヴェイの楽曲が持つ、温暖なマイアミ暮らしが続いてなお消えぬ北欧風味を完全に殺してしまっており、ミスマッチもいい所。この人はもう音楽は変えられないんだろうから、もっと合うVoを探したほうがいいかも。YouTubeで観る限り過去の名曲も全然歌いこなせてないし…。

YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCE
UNLEASH THE FURY
76
アンリーシュ・ザ・フューリー(2005)

アルバム・タイトルはかつてイングヴェイが同じ飛行機に乗り合わせて彼を怒らせた一般客に対して言い放った言葉で、その時の音源が流出したネット上で「プッ、怒りを解き放つなんて普通言わねーよ」と嘲笑の対象となっていたもの。一種の開き直りと言える命名なわけだが、本作の内容ももはや開き直ったとしか思えない作風。スティーヴ・ヴァイ、ジョー・サトリアーニと全米を回ったG3ツアーの好評や、欧米でのHR/HM復権の気運によって、アメリカでは発売さえされていなかった前作「ATTACK!」が昨年2年遅れで久々にメジャー・レーベルからリリースされるなど、傍から見ると「復活のチャンス」にもかかわらず、まるで「聴きたい奴だけ聴けよ」と言わんばかりの傲慢さを感じさせるアルバムである。ファットで抜けの悪いサウンド・プロダクション、キャッチーさが抑えられ、ヘヴィさが強調されたギター・リフ、手癖オンリーの弾きまくりギター・ソロ、ブリブリにブーストされた下品なベースと、これまで以上にイングヴェイの唯我独尊なマイペースぶりが全開。歌メロも(「ALCHEMY」以降ずっとそうだが)北欧っぽい陰があると言えば聞こえはいいがバリエーションに乏しく、個々の楽曲で聴けば悪くないものの、通して聴くと単調さが否めない。しかもインストの小曲なども含めてとはいえ18曲収録…曲の並びもテキトーで、もはや垂れ流し状態。もう「聴き手の気持ち」とか「幅広い人々に受けること」とかどうでもよくなってるんだろうな、きっと。

YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCE
ATTACK!!
83
アタック!!(2002)

同じシンガーが3作続けて歌うことはない、というジンクスを見事に踏襲し、元RAINBOWのドゥギー・ホワイトを新たなシンガーに迎えて発表されたアルバム。ちなみにKeyは元DREAM THEATERのデレク・シェリニアン。ミドル・テンポの曲からアルバムがスタートするため、ツカミは弱い。おまけに過去のアルバム、それも90年代に入ってからの自己のアルバムで聴かれたようなアレンジやメロディが頻出する。そしてこれはここ数作ずっとそうだが、ギター・ソロは手癖の嵐。…なんだけど、意外と悪くないんだよなぁ、コレが。よく聴くとなかなか劇的なメロディを持った曲が多くて、ジワジワと効いてくる。#4、#5、#8、#9、#12、#13あたりがお気に入り。ここ数年、イングヴェイが自身の音楽を語る際によく使っていた「Baroque & Roll」という言葉を曲名に冠したインストの#6も悪くない。前任が前任だけに批判されることも多いが、ドゥギー・ホワイトはクセのない歌声でなかなか雄々しく歌い上げていて個人的には好感度大。イングヴェイ自身が歌うジミヘン風の#10「Freedom Isn't Free」がなぜアルバムのこの位置(途中)に入っているのかは不明。

YNGWIE J.MALMSTEEN'S RISING FORCE
WAR TO END ALL WARS
77
ウォー・トゥ・エンド・オール・ウォーズ(2000)

とにかく音質が酷い。今日びアマチュア・バンドのデモ・テープでもこれよりマシなのがゴロゴロしている。元々イングヴェイはあまり音質にこだわりを見せず、あくまで楽曲と演奏が音楽の価値を決める、と考えているフシがあったが、これはあまりと言えばあまりなのではないか。おまけにジャケットも酷い。ヴァイキングっぽいモチーフは北欧様式美ファンにはソソるものがないわけではないが、これじゃファン以外CDを手に取る気にもならんだろ。「TRILOGY」のジャケットもアレだったが、誰かイングヴェイにイラストの上手いヤツ紹介してやれよ(って、喜国センセイも言ってたな)。楽曲の方向性は前作の流れを受け継いだ北欧様式美色の強いもので、#5、#7、#8、#10のような佳曲もあるのだが、このサウンドでは素直に楽しめない。音質の悪さを跳ね返すだけの楽曲でもないと言ってしまえばそれまでかもしれないが…。プロダクションのせいか楽曲のせいか、マーク・ボールズのヴォーカルも妙に無機的に響き、甲高いだけ、という印象もなきにしもあらず。日本での人気もこのアルバムでかなりブレーキがかかってしまったような感も。ヨーロッパのB級ネオクラバンドのCDです、といって聴かされれば「オッ、これいいじゃん」と思えたかもね…。

YNGWIE J.MALMSTEEN'S RISING FORCE
ALCHAMY
86
アルケミー(1999)

前作がキャッチーなヴォーカル中心のアルバム(彼にしては、だが)だった反動か、1曲目のインスト「Blitzkrieg」からまるでタガが外れたかのような弾きまくりを聴かせるアルバム。ヴォーカルには「TRILOGY」に参加し、日本では歴代ナンバーワン・ヴォーカリストとして評価の高かったマーク・ボールズが復帰している。ゴシックな雰囲気を持つコーラスが印象的な#2「Leonardo」や、今まであまり聴かれなかったタイプのサビが魅力的な#4「Stand」などが新境地を開きつつも、キラー・チューンといえる#5「Wield My Sword」を筆頭に、「MARCHING OUT」アルバム以来かというほど様式臭の強い楽曲が揃い(特に#7〜#9の流れはかなり強力)、個人的には非常に「らしい」アルバムであると感じる。ブルージーかつエモーショナルなギター・インストの#6「Blue」、3部構成の組曲形式のギター・インスト「Asylum」もなかなかの出来。ただ、ギター弾きじゃない人にはインストが多くて退屈かもね…せっかくマーク・ボールズが戻ってきたのに。まあ、そんなことを意に介する人間じゃないか。本作のネックはドラムのジョン・マカルーソ。技術的には巧い人なんだけど、明らかにパワー不足で、せっかく近来稀なほどメタリックな感触の楽曲が揃っているのに、迫力不足になってしまっている。惜しい。

YNGWIE MALMSTEEN
FACING THE ANIMAL
85
フェイシング・ジ・アニマル(1997)

イングヴェイの当時の奥さんとヤッちゃったことがバレたマイク・ヴェセーラがクビになり(BURRN!の来日こぼれ話で、マイクと奥さんが仲良くテレビゲームに興じていた、という話を読んだときからあたしゃ怪しいと思っていましたよ…:笑)、元SWEDISH EROTICA〜TREATのマッツ・レヴィンをVoに迎えて制作されたアルバム。しかし、本作に関してはシンガーよりも、ドラマーにかのコージー・パウエルが参加していることが大きな話題となった。コージーは本作発表後バイク事故で帰らぬ人となり、結果的に本作はコージーの遺作になってしまった。内容的には、日本人好みの哀愁系ハード・ポップ・チューン#7「Another Time」や、新妻エイプリルに捧げた甘いバラードの#5「Like An Angel」、ポップなコーラスが印象的な#9「Alone In Paradise」といった楽曲が象徴するように、かなり「歌」を重視したキャッチーな作品となっており、個人的な印象は「ODYSSEY part2」。#3、#4、#11あたりもなかなか渋い魅力を放っている。マッツ・レヴィンのVoは時々野卑に響くことがあり、個人的に好みではないが、ソツのない無難な仕事ぶりを見せている。日本盤ボーナスは疾走系様式チューンで、こういう曲が好きな日本のコア・ファンへのサービスか。

YNGWIE MALMSTEEN
INSPIRATION
79
インスピレーション (1996)

イングヴェイによる、影響を受けた(あるいはデビュー前に聴いていた)アーティストの楽曲をカヴァーした企画アルバム。本人いわく「カヴァー・アルバムではなくインスピレーション・アルバム」だそうだが、聴く側にとってはどうでもいい。日本盤ボーナス、という扱いの#11を除くと、全10曲中半数である5曲がDEEP PURPLEにRAINBOWというリッチー・ブラックモア絡みの楽曲であるというあたりがイングヴェイらしいというべきか。ギターを弾くきっかけになったというジミ・ヘンドリックスの#4(と、日本盤ボーナスの#11)、アマチュア時代によくジャムっていたというSCORPIONSの#7あたりは納得ながら、KANSASの#1、UKの#5、RUSHの#9などは、勿論好きか嫌いかで言えば好きなんだろうけど、本当にインスピレーションを受けるほど影響されたのか? というとちょっと疑問な感じ。当初はロニー・ジェイムズ・ディオやイアン・ギラン、クラウス・マイネ、ジョン・ウェットン、スティーヴ・ウォルシュといった元曲のオリジナル・シンガーを呼ぶつもりだったようだが、ギャラの問題か単に断られたのか、結局参加しているのはジェフ・スコット・ソートにマーク・ボールズ、ジョー・リン・ターナーというかつてイングヴェイのバンドに参加していた人たちばかり。まあ、イェンスとアンダースのヨハンソン兄弟も含めて、同窓会的なメンバーになっているのはオールド・ファンにとっては懐かしくて悪くないだろう。どの曲も「まあ、イングヴェイがプレイすればこうなるだろうね」という感じの仕上りで、Voが実力派揃いなこともあって悪くはないが、ギター・ソロが終わるとさっさと終わってしまう#10「Child In Time」はいただけない。いずれにせよ選曲が全体に渋めというか地味で、しかも1曲目が比較的ポップなKANSASの「Carry On Wayward Son」なので、アルバム自体の印象がパンチに欠ける。どうせなら「Burn」とか「Kill The King」みたいなベタでもガツンと来る曲を頭に持ってくればもう少しインパクトのあるアルバムになったのではないか。

YNGWIE MALMSTEEN
MAGNUM OPUS
81
マグナム・オーパス(1995)

ラテン語で「大作」ないしは「傑作」を意味する大仰なタイトルを冠しながら、内容がタイトルに見合っていない印象のアルバム。イングヴェイの平均点を超えていると思える楽曲はキャッチーな#4「The Only One」と、劇的なメロディを持つ疾走チューン#10「Fire In The Sky」(この曲の歌詞をマイクが勝手に変えたことはイングヴェイの逆鱗に触れたようです)くらいで、あとは可もなく不可もない楽曲ばかり。前作「THE SEVENTH SIGN」を縮小再生産したようなアルバムというのがトータルの印象。ちなみに#6「Overture 1622」の1622とはイングヴェイのご先祖が銀鉱を発見して貴族に叙せられた年なんだとか。インタビューで「俺は貴族だ。正確には伯爵だ」と発言しているのを見て、僕は長年の疑問だった、おとぎ話に出てくる王子様は皆カッコいいのに、王子様の未来型であるはずの王様は太っている理由がわかったような気がしました。なお、イングヴェイはブルース・ディッキンソンにも「俺は貴族だ」と自慢し、「So What?(それがどうした?)」と返されご立腹だったようです。

YNGWIE MALMSTEEN
I CAN'T WAIT
75
アイ・キャント・ウェイト (1994)

高田自身の希望か、当時のイングヴェイの人気を笠に着たレコード会社のゴリ押しか、有名プロレスラー高田延彦のテーマ曲として作曲され、先にシングルとして発表された#5「Power And Glory」を収録したミニ・アルバム。その曲以外に2曲の新曲と、先日の「SEVENTH SIGN」ツアーにおける日本武道館公演のライヴ音源2曲を加えた全5曲収録。タイトル曲はマイク・ヴェセーラ作詞による、イングヴェイの楽曲としては異色な、アコギのストロークがフィーチュアされた爽やかなポップ・ナンバーだが、メロディのフックは弱め。作りかけでお蔵入りになりかけていたこの曲をちゃんと仕上げようと主張したのはマイクだったそうで、マイク好み、というかアメリカ人好みの曲なのかも。一方もう一曲の新曲#2はダークな初期をイメージさせる楽曲で、オールド・ファンにとってはこちらのほうが「イングヴェイらしい」と感じるのでは。ライヴ音源は「Rising Force」に「Far Beyond The Sun」という「みんな大好き」な鉄板の選曲なので楽しめる。高田延彦のテーマは、特筆するほどのものではないがイングヴェイらしいインスト曲。印象的ながらちょっと失笑してしまう「タ・カ・ダ! タ・カ・ダ!」の掛け声は…これは高田延彦サイドからの要請だったんですかね? ある意味、日本におけるイングヴェイ人気のピークを象徴する「商品」。

YNGWIE MALMSTEEN
THE SEVENTH SIGN
87
セヴンス・サイン(1994)

90年代におけるイングヴェイの最高傑作との呼び声も高いアルバム。ヴォーカルは元OBSESSION〜LOUDNESSのマイク・ヴェセーラ。1曲目の「Never Die」はイントロから速弾き全開の疾走チューンで、ファンならガッツポーズ必至。そしてジミヘン風の「I Don't Know」、メランコリックかつキャッチーな「Meant To Be」、シングル・カットされたバラードの「Forever One」、ソリッドなR&R調の「Hairtrigger」、本作制作中に事故死した兄に捧げた泣きの名インスト「Brothers」、イングヴェイの楽曲中、最も「ドラマティック」という表現が相応しいタイトル曲、ブルージーな「Bad Blood」、当時新婚(再婚だけど)でアツアツだった妻、アンバーに捧げたバラードで、バッハの「G線上のアリア」の翻案といえる「Prisoner Of Your Love」、ヘヴィかつミステリアスな「Pyramid Of Cheops」、イントロのチェンバロが素敵なアップテンポのカッコいい曲「Crash And Burn」、と続き、物悲しいアコースティック・ギターの小品「Sorrow」で幕を閉じる、と各曲の個性が明確でバラエティに富んだ本作は、マイク・ヴェセーラの明るい声質もあり、初心者が取っ付きやすい一枚。日本盤ボーナス「Angel In Heat」は初のイングヴェイ自身がヴォーカルをとった曲で、全ての楽器をイングヴェイ自身がプレイ、自宅のスタジオで録音したという、まさにオマケ的な一曲。日本ではhideの「HIDE YOUR FACE」に阻まれオリコン初登場1位こそ逃したものの、20万枚以上を売り上げる過去最大のヒットとなった。

YNGWIE MALMSTEEN
FIRE AND ICE
90
ファイアー・アンド・アイス(1992)

ELEKTRAに移籍して最初で最後のアルバム(アメリカでのセールス不振によって本作1枚で契約を切られてしまった)。日本ではオリコン・ヒットチャートで初登場1位を記録し、当時のHR/HMファンを驚かせた。本作はイングヴェイのアルバムの中では評価の低い一枚であり、駄作呼ばわりされることも少なくないが、点数を見ればおわかりになるように、個人的にはイングヴェイのアルバムで一番思い入れのある作品である(最高傑作である、とは言わないが…)。生オーケストラの起用や、ジャズ/フュージョンのスケールを使用した楽曲の存在、シタールを使用したエキゾチックな趣の楽曲など、楽曲のバラエティは過去最高で、この実験性をどう解釈するかによって評価が分かれるかもしれない。あるいは単純にマッタリとしたミドル〜スローテンポの楽曲が多いのが不評の原因か。ヨラン・エドマンのVoであればこそ、の#2「Dragonfly」の幻想的な浮遊感とか、僕は大好きだけどね。笑っちゃうほど超ポップな#3「Teaser」も好きだなあ。中間部に突如バッハが登場する#6「No Mercy」や#10「Forever Is A Long Time」といった疾走チューンの出来もいい。バラードの#11「I'm My Own Enemy」も前作の「Save Our Love」に負けず劣らずの美しい曲。日本盤ボーナス・トラックの「Broken Glass」もヨランの歌声が映える切ない曲で、ボーナスにしておくには惜しい出来。まあ、この思い入れの強さは、本作が僕にとって最初に聴いたイングヴェイのアルバムである、という部分も大きいのかもしれないけどね。

YNGWIE MALMSTEEN
ECLIPSE
87
エクリプス(1990)

ソウル・メイトだったはずのジョー・リン・ターナーとは結局アルバム一枚でケンカ別れ。強力なフロントマンがバンドを去ったことを悲観したヨハンソン兄弟もバンドを脱退、メンバーを一新して発表された本作は、アメリカでのキャリアがほとんどないスウェーデン人のラインナップによって制作された。中でもベースのスヴァンテ・ヘンリソンは、このバンドに参加する直前までオーケストラでコントラバスを弾いていたというから驚きである。Voに迎えられた元MADISON〜JOHN NORUMのヨラン・エドマンの声質もあり、サウンド的にはこれまでのイングヴェイの作品の中で最も北欧っぽさを色濃く感じさせる、繊細なサウンドに仕上がっている。キャッチーでありながら哀愁を強く感じさせる#1「Making Love」や#6「Judas」、疾走チューンの#4「Motherless Child」に#8「Demon Driver」、美しいバラードの#3「Save Our Love」など、妙にアメリカンだった前作と比べ、北欧的な感性が自然に現れた楽曲が気持ちいい(イングヴェイのジミヘン好きが高じた#2「Bedroom Eyes」は浮き気味だが…)。日本では本作もヒットしたものの、アメリカではプロモーションの不足もあってまったく話題にならず、セールス的には大コケ。そのためイマイチ評価の低いアルバムであるが、北欧っぽい雰囲気を愛する僕としては、名盤といわれる前作・前々作に匹敵するほど好き、ということでこの点数。

YNGWIE J.MALMSTEEN'S RISING FORCE
ODYSSEY
87
オデッセイ(1988)

イングヴェイが元RAINBOWのジョー・リン・ターナーと組んだ、ということで話題を呼んだアルバム。「ソウル・メイト(当時のインタビューでジョーのことをこう呼んでいた)」と制作したアルバムということで、ソロ名義ではなくバンド名義でのリリース。制作開始直前にイングヴェイが交通事故に巻き込まれるという衝撃的な事件もあり、当時はまさに「満を持して」リリースされたアルバムだった。アルバム1曲目こそ、スウェーデン時代からの古いマテリアルであるという典型的様式ナンバー#1「Rising Force」で幕を開けるものの、全体的には前作にもましてポップかつキャッチーなテイストを持ち、当時のHR/HMブームにうまく乗ったアメリカンな作品となっている。ポップとさえ言えるコーラスが印象的な#3「Heaven Tonight」、アメリカ市場受けしそうなメロディをもった#8「Now Is The Time」、#9「Crystal Ball」、初のヴォーカル・バラード#4「Dreaming」など、おそらくジョーのセンスが生かされていると思しき楽曲がアルバムを華やかに彩っている。#7「Deja vu」をはじめ、印象的なヴォーカル・ラインを持った楽曲が多く、そのことによってイングヴェイのギター・テクニックが事故からの回復が完璧ではないというマイナスを充分に埋め合わせており、イングヴェイ史上最高のセールスを記録した。

YNGWIE J.MALMSTEEN
TRILOGY
86
トリロジー(1986)

「Guitar Player」誌での部門賞の独占をはじめ、イングヴェイ・フォロワーと目されるギタリストたちが次々とデビューするなど、シーンにおけるイングヴェイの存在感が加速度的に高まった時期にリリースされた3rdアルバム。Voは元テッド・ニュージェントのバンドでベースを弾いていたマーク・ボールズに交代、素晴らしいハイ・トーンを聴かせる。Bはマルセル・ヤコブの脱退のため(本作収録の#2「Liar」は彼について歌った曲と言われている)、イングヴェイ本人がプレイ。そういった事情もあってか、本作はバンド名義ではなくソロ名義で発表されている。音楽面では以前に比べ、かなり商業的というか「聴きやすさ」を意識して作られている感があり、メロディ・ライン、とくにサビのコーラスはかなりキャッチーで、イングヴェイの代表曲のひとつに数えられる名曲#1「You Don't Remember, I'll Never Forget」をはじめ、耳なじみの良い楽曲が揃っている。イングヴェイが実は「泣き」にも長けたギタリストであることをフィーチュアしたインスト・バラードの#4「Crying」や、ネオ・クラシカル系ギタリストの教科書ともいうべき名ギター・インストの#9「Trilogy Suite Op.5」(ギターを弾かない人には退屈な曲かもね…)も収録した、名盤の誉れ高き一枚。個人的にはシンプルに過ぎるプロダクションが楽曲の魅力を充分に引き出していないような印象もあったりするのだが、こんなジャケットのアルバムがアメリカでゴールド・ディスクに輝いていたりするのだから、「いい時代」だったと言うべきか。

YNGWIE J.MALMSTEEN'S RISING FORCE
MARCHING OUT
88
マーチング・アウト(1985)

ALCATRAZZでの活動、および名曲ギター・インスト・ナンバーを多数収録した前作によって、ロック・ギター界の革命児としての評価を確立したイングヴェイの、RISING FORCE名義による2作目のアルバム。前作に引き続き、Voはジェフ・スコット・ソート、Keyは元SILVER MOUNTAINのイェンス・ヨハンソン。そして新たにDrにはイェンスの兄で、やはり元SILVER MOUNTAINのアンダース・ヨハンソン、Bにはマルセル・ヤコブが迎えられ、さながら「スウェーデン・オールスターズ」とでも呼ぶべき強力布陣となっている。音楽的にはDEEP PURPLE〜RAINBOWの流れを引き継いだ北欧様式美の王道を行きつつも、よりヘヴィで荒々しく仕上げられており、「北欧メタル」の軟弱なイメージを嫌うHR/HMファンにもアピールする音となっている。イントロ#1に続く名曲#2「I'll See The Light Tonight」のドタマの「No〜!」のスクリームで鳥肌。他にも#8「On The Run Again」や#10「Caught In The Middle」など、カッコいい曲が満載。#4「Disciples Of Hell」のソロの緊張感なんて失禁モノだね。異郷アメリカにおいて、あくまでスウェーデン人としての成功を目指したイングヴェイの心意気を示す#5「I Am A Viking」なんかも素敵。彼の作品中、最も剛直なHR/HM魂に満ちた名盤。音質が悪いのが玉に瑕。

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