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SYMPHONY X
ICONOCLAST
84
アイコノクラスト (2011)

またしても4年という長いブランクを挟んで発表された8作目のアルバムで、バンド史上初の2枚組の大作である(一部地域では曲数を減らした1枚仕様も販売)。本作のテーマは「機械によって支配された社会」という『ターミネーター』や『マトリックス』といった映画や、QUEENSRYCHEの「OPERATION:MINDCRIME」などを思わせる設定に基づいて制作されている。そのコンセプトゆえか、従来の作品に比べるとマシーナリーな作風で、叙情的なコーラスや神秘的なKeyアレンジなど、私がこのバンドに期待する要素はやや控え目に映る。とはいえ、このヘヴィで攻撃的な要素は「THE ODYSSEY」以降次第に顕著になっているものなので、ある意味順当な進化のベクトルに則ったものであり、聴き込めば彼ららしい独特のドラマ性を秘めたメロディやテクニカルに構築されたアレンジが今回も確実に息づいていることが感じとれるだろう。そして、このバンドが多くの「プログレッシヴ・メタル」バンドから一歩抜け出る支持を獲得できている原因と思われるヘヴィ・メタルとしての基本的な躍動感・カタルシスは今回もしっかり提示されており、あまり複雑な音楽を好まない私のようなリスナーでも気持ち良くノることができる。とはいえここまで高密度な押しの強いサウンドで2枚組という長さはいささか聴き疲れを誘発されることもまた事実なのだが。

SYMPHONY X
PARADISE LOST
86
パラダイス・ロスト (2007)

05年にMEGADETHやDREAM THEATER、NEVERMOREらと回った「GIGANTOUR」によって、それまで北米では無名に近かった彼らの凄味を当地のメタル・ファンに知らしめた結果、初の全米チャート・インを果たした7作目。前作発表後、ラッセル・アレン(Vo)やマイケル・ロメオ(Vo)はプロジェクトやゲスト参加などでいくつか音源を発表していたとはいえ、バンドの作品としては実に4年半という長いインターバルを置いてリリースされた本作は、待った甲斐のある貫禄の傑作となった。基本的には前作の流れを汲むヘヴィで攻撃的なプログレッシヴ・メタル・サウンドであるが、これまで以上に楽曲・サウンドとも磨き込まれ、メリハリの利いた展開が紛うことなきAクラスのオーラを放っている。ここまでクオリティを高められると、もはや「もっとキャッチーなメロディがほしい」などという極個人的な希望は黙って飲み込まざるを得ない。サウンドの基本となるヘヴィなヴァースからメロディックなコーラスへ、という構成は昨今のトレンドであるメタルコアに通じる…というのは冗談だが、実際かなりコアな嗜好の持ち主をさえ唸らせるであろうアグレッションが渦巻いている。ハリウッドなどで活躍するデザイナーから「ファンなので、ぜひやらせてほしい」という申し出を受けて制作されたアートワークも、オタク心を刺激する素晴らしい逸品で、本作のスケール感を見事に表現している。

SYMPHONY X
THE ODYSSEY
86
ジ・オデッセイ (2002)

2枚組ライヴ・アルバム「LIVE ON THE EDGE OF FOREVER」のリリースを挟んで発表された6枚目のスタジオ・アルバム。前作、前々作は高品質ではあったものの、バンドの持つポテンシャルに対してやや小さくまとまってしまっているような印象があって、正直、個人的にはこのバンドに対する興味がフェイドアウト気味だった。しかし本作では見違えるようにダイナミズムを取り戻し、厳格かつ強靭なサウンドがアルバム全体を支配している。まず、ギターの出音がこれまで以上に攻撃的。冒頭を飾る#1「Inferno (Unleash The Fire)」はへヴィで先鋭的なリフと、プログレッシヴ&クラシカルなパートがせめぎあう、新たなる「SYMPHONY X節」を体現する一曲。一方、名盤3rd「THE DIVINE WINGS OF TRAGEDY」収録の「The Accolade」の続編となる#4「Accolade II」では、私が彼らに望む最大の要素である、独特のリリシズムが感じられて嬉しい。しかし本作のハイライトは何と言ってもジョイスの『ユリシーズ』をテーマとする24分の超大作#8「The Odyssey」であろう。高揚感に満ちたシンフォニック・アレンジに胸躍るイントロから、時にミステリアスに、時にヘヴィに展開を重ね、劇的なコーラスによって幕を閉じるエンディングまで、圧巻のエピックである。この曲を前にしては、他のバンドであれば「渾身の大作」であろう、8分を超える変幻自在の#7「Awakenings」さえも霞んでしまう。個人的にはもう少しキャッチーなメロディが欲しいというのが本音だが、バンドの底力をあらためて知らしめる力作であることは間違いない。

SYMPHONY X
V
82
ファイヴ-新・神話組曲- (2000)

前作のオリンポスに続き、本作のテーマはアトランティス文明。どうやら彼らは古代が好きみたいですね。僕もムー大陸とか、ピラミッドの秘密とか、その手の五島勉的な与太話は大好きなので、気が合うね(笑)。しかも本作はバンド史上初のトータル・ストーリー・アルバムで、60分以上かけてミステリアスかつドラマティックな物語を綴っている。そのストーリーの日本語訳を監修しているのが日本エドガー・ケイシー・センターってのが、レコード会社の妙な意気込みを感じさせて微笑ましい。作品のテーマゆえか、前作で薄くなってしまったように感じられた神秘性のベールが再び厚くなったように感じられるのは非常に好ましいのだが、キラー・チューンがないために、ストーリーにハイライトが生まれず、せっかくのコンセプトを活かしきっていないように思われるのがちょっと残念。オーケストラや合唱団を駆使した大仰なアレンジは素晴らしいし、楽曲自体もよく練り込まれているのだが、今ひとつ聴いていて高揚するものがないのは、ギター・リフにフックが足りないからではないかと思うのだが…。GとKeyのソロ・プレイも、相変わらずテクニカルではあるが、ややマンネリ気味かも。とはいえ、全体の完成度は高いので、歌詞を追いつつじっくり聴き込めば、それなりに得るもののある作品だと思う。

SYMPHONY X
TWILIGHT IN OLYMPUS
82
トワイライト・イン・オリンポス (1998)

セカンドの時点までは完全に「日本だけのバンド」だったSYMPHONY Xだが、前作の充実ぶりはヨーロッパのメタル・ファンの心をも鷲掴みにすることに成功した。とはいえ、日本では主にイングヴェイ的な速弾きを好むネオクラのファンが彼らを支持していたのに対し、欧州ではDREAM THEATERなど、プログレ・メタルを支持するファンが彼らを支持していたようで、その人気の「質」には若干の違いがあったようだが。いずれにせよ、成功によって予算が増えた結果か、これまで微妙にチープだったジャケットがDREAM THEAERの「AWAKE」などを手掛けた人物による上質なものになっている。古代オリンポスという、彼らの持つ神秘性に相応しい魅力的なモチーフもあって、期待に胸を膨らませて聴いてみたが…正直あれ?こんなもん?って感じ(苦笑)。いや、音楽的な方向性は全く変わっていないし、クオリティも低くないのだが、今回はなんかメロディもプログレッシヴさも、前作で一気に加速したヘヴィささえも今ひとつ不完全燃焼で、妙にこぢんまりとまとまってしまった印象。クラシカルな小品の#3「Sonata」および、和音階を取り入れたバラードの#8「Lady Of The Snow」は印象的だが、メタリックな曲がフック不足。しかし、全体的には充分に高品質で、本作発表後、初の来日公演を実現させた(前作まで一度もライヴをしたことのない「スタジオ・バンド」だったという恐ろしい事実が判明したが、充実したパフォーマンスだったようです)。

SYMPHONY X
THE DIVINE WINGS OF TRAGEDY
90
ザ・ディヴァイン・ウィングス・オブ・トラジディ (1996)

冒頭1曲目のリフを聴き「し…SYMPHONY XまでPANTERA化!?」と青ざめました。しかし、そのPANTERAを思わせるヘヴィなリフに、神秘的なKeyが被さり、QUEEN風のコーラスと共に勇壮な歌メロに突入した瞬間、そのあまりのカッコよさに背筋がゾクゾクしました。マイケル・ロメオ(G)は実際PANTERAのファンだそうで、本作において顕著になったリフのヘヴィ化がPANTERAに感化されたものであることは間違いない。しかし彼らの場合、この時期数多く存在した「PANTERA化」して魅力を失ったバンドとは異なり、自らが元々持っていた魅力を保持し、PANTERA的ヘヴィさと融合することで、新しい魅力を構築することに成功した。神秘的・叙情的・ドラマティック・ネオクラシカル、プログレッシヴ、テクニカル、といった要素はそのままに、「ヘヴィ」という要素を加えて完成したこの新たな「SYMPHONY X」スタイルは掛け値なしのカッコよさ。#3のような王道のネオクラ・チューンも、#8のような20分以上におよぶプログレッシヴな大作も、これまでの彼らの魅力と、新しい魅力が同居する緊張感に満ちた仕上がり。アルバムのラストを飾るのが抑制の効いた叙情が何とも染みる「Candlelight Fantasia」(なんて素敵な曲名!)ってのも心憎いね。音質もグッと向上してるし、こりゃ名盤でしょ。

SYMPHONY X
THE DAMNATION GAME
86
ザ・ダムネイション・ゲーム (1995)

タイトル曲である#1のイントロで「キター!」って感じですよ。このイントロを聴いて何も感じない奴はネオ・クラシカルと呼ばれる音楽と縁のない感性の持ち主だから、他の音楽を聴いてなさいシッシッ、と言いたくなるくらい見事なイントロだ。リリース当時この手のHR/HMが絶滅の危機に瀕していたこともあり、マニアの間で前作がかなりの注目を集めたSYMPHONY Xのセカンド・アルバム。Voがラッセル・アレンにチェンジしている。パワフルなジェフ・マーティン(Vo :RACER X)といった感じのラッセルの歌唱は、前任者同様バンドの音楽に対してワイルド過ぎる感じがするが、実力的には申し分ない。ダークで神秘的なムードが特徴の、ネオ・クラシカル色の強いプログレッシヴ・メタルという基本線はそのままに、より煽情的なメロディを強めた本作は、相変わらずサウンドが軽いというハンデをものともせず、BURRN!誌で90点という高得点を獲得、日本における支持を確立した。ヘヴィな楽曲をヘヴィと感じさせず、ミステリアスかつ華麗な雰囲気を生み出すマイケル・ピネーラのKeyのアレンジ、そしてGのロメオとKeyのピネーラ、両マイケルによるテクニカルなソロ・バトルなど、聴き所は多いが、個人的に本作最大の魅力は、どうやったらこんなメロディが浮かんでくるんだろう、という、神秘的なメロディの数々。中でも、二部構成からなる大作#9「A Winter's Dream」の後半部、プログレッシヴな曲調の狭間に浮かび上がるこのメロディは、まさに天上の旋律。

SYMPHONY X
SYMPHONY X
80
シンフォニー・エックス (1994)

ニュージャージーなんていうBON JOVIなイメージの土地から突如こういうバンドが飛び出してくるから、アメリカはやはり侮れない。元PHANTOM'S OPERAのマイケル・ロメオ(G)が結成したバンドのデビュー作である本作には「アメリカン」と形容できる要素は一片もない、ネオ・クラシカルでプログレッシヴなHR/HMサウンドが展開されている。全体を包み込むダークで神秘的なムード、緊張感の中に見え隠れする叙情性、そしてマイケル・ロメオの流麗なレガート・プレイはネオクラ愛好家に衝撃を走らせるのに充分なインパクトを備えていた。難を言えば、スカスカのスネア・ドラム・サウンドと、ロッド・タイラー(Vo)の繊細さに欠ける歌い回しだが、音楽的な魅力はそれらの欠点を埋め合わせてあまりある。#1のイントロのタイトルが「Into The Dementia」というだけで「ワカッてるねコイツら」って感じだが、#4「Masquerade」の、オペラ風コーラスによるブレイクから疾走するサビになだれ込む瞬間とか、#9のGとKeyの掛け合いなんかゾクゾクするよ。かなりプログレ・メタル風のアレンジが多用されているが、ストレートに疾走するパートも多く、基本的な楽曲のフォーマットはHR/HMのそれなので、プログレ・メタルがあまり得意ではない僕のようなリスナーでも一気に聴きとおすことができる。テクニシャン揃いの各メンバーによるインタープレイも聴き所。

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