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聖飢魔II
LIVING LEGEND
86
リヴィング・レジェンド (1999)

最終作となるべくして制作されたアルバムで、タイトルからして「いかにも」である。結局いかに音楽性の幅を広げようと、最後までヘヴィ・メタルのカリカチュアとしてのイメージから逃れられなかった己へのレクイエムというべきオープニング・チューン「Heavy Metal Is Dead」は、その曲名とは裏腹に、デーモン渾身のシャウトが炸裂する強力なヘヴィ・メタル・チューン。レコード会社の意向もあり、全体的には彼らのパブリック・イメージに近い正統的なヘヴィ・メタル色の強い作風ながら、彼らならではの凝った仕掛けやユーモアのセンスも巧みに織り込まれ、「集大成」的なニュアンスを強く感じる。シングルとして発表され、本人たちにとっては本作のハイライトであったろう#5「20世紀狂詩曲」は、KORNあたりを意識したと思われるヘヴィな曲だが、そんな曲に社会風刺的な歌詞を乗せてしまったセンスも含め、個人的にはダサすぎて聴くに耐えない。しかし、そんなダサさも、新しい試みに果敢に挑戦する姿勢も、ある意味非常に彼ららしいと言える要素で、これはやはり本作に収録されて然るべき曲なのだろう。「集大成」を意識するあまり、やや散漫な印象があり、個々の楽曲のインパクトも過去の名曲を超えるものではないが、全体的なクオリティは充分に高く、日本ロック史上最高のコンセプト・バンド「聖飢魔II」のラスト・アルバムの名に恥じない力作である。

聖飢魔II
MOVE
82
ムーヴ (1998)

1曲目からバラードですよ。ラストもバラードですよ。まさしく前作にもましてのメロメロポップ路線。しかも歌詞の一人称が「僕」ですよ。おまけに外部からソングライター&プロデューサーとしてポップ畑のジョー・リノイエを迎えてます。この時期ジョー・リノイエといえば武富士のCMで流れる謎のダンス・チューンを作曲した人として知られていたわけですが何故またこの人だったのかは不明。いや、優れた作曲家でありプロデューサーなんだけど。まあ、いずれにせよ相変わらず音楽のクオリティは非常に高い。前述のバラード2曲も、とても悪魔の歌う曲とも思えぬ美しくもポジティヴな秀曲だし、シングルとなった#2「Masquerade」、#4「空の雫」も完成度の高いメロディアス・ハードの佳曲。#5の「サクラちってサクラ咲いて」なんて優しささえ感じるメロディに思わず切なくなってしまうほど。非常に「いい歌」のそろった一枚で、インタビューでは「あえてポップに作った」というようなことを言っていたが、90年代における「ポップ」とはメロディアスであったり「いい歌」であったりすることを意味しないということを理解できなかったのがこのバンドの限界だったのかな。音楽としてのクオリティは高いけど、HR/HMとしてはこの程度の点数にとどめざるをえない。

聖飢魔II
NEWS
85
ニュース (1997)

起死回生の一枚だった「メフィストフェレスの肖像」に続く本作は、「メロディアス」「爽やか」といった言葉がよく似合う一枚。#1「Departure Time」のイントロこそ「まさかインダストリアル?」とヒヤッとさせるが、楽曲自体はオープニングに相応しいスケール感のあるナンバー。メロディアス・ハード的な楽曲を中心に、シングルとなった#4「Brand New Song」や#10「Save Your Soul〜美しきクリシェに背を向けて〜」(名曲!)のような疾走チューンからアコギのアルペジオが美しいバラードの#5「火の鳥」まで、良質の楽曲が揃っている。エース清水(G)とルーク篁(G)唯一の共作曲である#7「Crimson Red」の洗練されたスピード感もいいし、ライデン湯沢ならではのプログレッシヴ…というか妙ちきりんな#9「Dangerous Voyage〜失楽園への旅〜」も味がある。楽曲のクオリティは本当に申し分ないのだが、このクサいほどに美しいメロディに、デーモン小暮ならではのクサい歌詞が乗ってしまうと、アニメソングみたいに聴こえてしまって個人的には気恥ずかしい。英語だったらもっと好きになれたかも。あと、せっかく前作で取り戻した悪魔っぽさがまた消えてしまったのも残念。

聖飢魔II
メフィストフェレスの肖像
88
The Portrait Of Mephistpheles (1996)

BMGビクター移籍第一弾。初期のメイン・ソングライターであったダミアン浜田の楽曲を収録し、全体の音楽性も初期を彷彿させるメロディックな正統派ヘヴィ・メタルに回帰した会心の一作となっている。もっとも、会心の、というのは聴き手の感想であって、このある意味「退化」とも言うべき方向性の転換にはメンバーとしては忸怩たる思いもあるようであるが…。そんな内輪の事情はさておき、とにかく本作は楽曲が素晴らしい。かつての名曲のタイトルを冠した(別に似ているわけではないが)#1「地獄の皇太子は二度死ぬ」を筆頭に、ダミアン浜田の哀メロセンス炸裂の#2「凍てついた街」、ネオクラ風疾走チューン#3「Great Devotion」、大仰なバラードの#4「Paint Me Black」、シングルとなったギャロップ・ビートを持つちょっとメイデン風の#5「野獣」、名盤「地獄より愛をこめて」の表題曲を思わせるヘヴィかつドラマティックなタイトル曲#6、メロディアス・ハードの佳曲#7、DEEP PURPLEを思わせるオルガンが隠し味の#8、ミステリアスなムードが印象的な#9「サロメは還って殺意をしるし」、アニソンも真っ青の歌詞と曲調がこっ恥ずかしくもカッコいい#10「Holy Blood」と、全編に渡ってクサいメロディと展開が堪能できる好作。やや音質が軽いのが玉に瑕だが、個人的に聖飢魔IIにハマるきっかけとなった一枚であり、メロディック・パワー・メタル的な音楽を好む方にはまず本作をお試しになることを薦めたい。

聖飢魔II
PONK!
75
ポンク! (1994)

ルーク篁がプロデュースした問題作。問題作といっても、別に音楽のクオリティが低いわけではない。相変わらず演奏は達者だし、楽曲だってよく出来ている。恐らくやりたかったことは「親しみやすい日本のポップなロック」なんだろうなあ、とは思うが、90年代のポップ・ミュージックはここまでカッチリしてちゃダメでしょ。構築美やテクニックが評価される時代は80年代と共に去ってしまったというのに。歌詞の目線も高すぎて「大卒のお利口さん」丸出しなので、ティーンエイジャーの共感はまったく得られそうもない。そもそも聖飢魔IIは音楽を聴いたことがない人でも名前とルックスはよく知られているし、良くも悪しくもイメージが確立されてしまっているので、ここまでイメージと乖離した音楽をやるのは無理がある。せっかくこれまで「信者」と呼ばれる確固たる支持基盤を築くことに成功したのだから、自分たちのコンセプトおよびイメージと心中する覚悟を持つべきだったね。オッサンの感覚で「ポップ」をやろうとするとダサくなる典型例。ここしばらくセールス的には伸び悩んでいたこともあり、新規開拓に出たのかもしれないが、結果的には従来のファンを失うだけに終わった失敗作、と言ってしまっていいだろう。

聖飢魔II
恐怖のレストラン
83
The Frightful Restaurant (1992)

個人的には迷走、もしくは乱心にしか思えなかった「爆裂聖飢魔II」はさて置くとしても、ここ数作の彼らのアルバム(大教典…っていいかげんしつこいな。以後普通に表記します)にはいささかバンド・コンセプトである「悪魔らしさ」が欠如していた感は否めない。しかし、本作ではスクリーミング・マッド・ジョージのプロデュースによる、バンド史上最も凶悪なルックスに相応しい、かつてないほどヘヴィなサウンドによって、過剰なまでの「悪魔らしさ」が表現されている。とはいえ、このバンドがデス/ドゥーム・メタルの台頭やPANTERAのブレイクといった当時の「海外メタル事情」を意識しているはずもなく(?)、ヘヴィになったとは言っても別に突然スラッシュやPANTERAクローンに変貌したわけではない(#2や#9などはスラッシュ風だが)。せいぜいこれまでのJUDAS PRIESTのような正統派HMやLAメタル風のキャッチーなメタル・サウンドから、初期BLACK SABBATH的な方法論に変化しただけなので、大騒ぎするほどのことはない。おどろおどろしさや禍々しさを表現する楽曲の完成度はやはり大したものだが、デーモン小暮のVoは、日本のメタル・シンガーとしてはハイレベルであるものの、「世界基準」で見れば「細めのハイトーン」ということになってしまうので、正直バックのヘヴィさに負けてしまっている感は否めない。デーモン小暮の歌が活きるのは、もっとメロディアスな方向性なのではないだろうか。

聖飢魔II
有害
84
You Guy! (1990)

シングル「白い奇蹟」およびベスト・アルバム「WORST」の大ヒットによって、まさかの紅白歌合戦出場を果たした彼らの、絶頂期の一枚。サウンドは、当時メインストリームだったアメリカン・メタルを思わせる非常にゴージャスな音像で、「悪魔」らしいダークなムードは皆無。正直VAN HALENを彷彿させる#4「ファラオのように」や、こりゃどう聴いてもWHITESNAKEの「Crying In The Rain」でしょ…な#5「ROSA」などは少々やりすぎな感じさえする。#1「有害ロック」なんていう安直なタイトルはどうかと思うし、#4「ピンクの恐竜」、#9「犬のようになめろ」などに顕著なお下劣エロ路線は、アンチ下ネタなムッツリスケベの私には正直嫌悪感を禁じえず。とはいえ、デーモン小暮(Vo)とエース清水(G)とのデュエットが絶妙なドライヴ感を生み出している#6「精神の黒幕〜LIBIDO〜」や、まるでJOURNEYのようなメロディアスな歌メロと、モロにプログレな間奏部のコントラストが感動的な#7「嵐の予感」などは素晴らしい。#10「ヒロイン・シンドローム」も結構ドラマティックでお気に入り。余談ですが、本作の初回盤特典だった「有害アレイ」、FINAL MASSまで持っている人がかなり多くてビックリしました。ファン(じゃなかった信者)の皆様、物持ちがいいんですね…。


聖飢魔II
THE OUTER MISSION
87
ジ・アウター・ミッション (1988)

キラキラ哀愁ハード・ポップの秀曲シングル(じゃなかった小教典)「Stainless Night」のスマッシュ・ヒットに続く、レーベルメイトであったREBECCAの土橋安騎夫(Key)をプロデューサーに迎えて制作されたコンセプト・アルバム。スペイシーで人工的な、90年代にはすっかり聴かれなくなった音色のキーボードがド派手にフィーチュアされ、(当時としては)非常に洗練されたサウンドになっている。SF冒険映画のテーマ曲かと思ってしまう壮大な#1「Overture〜Winner!」、間奏部でヘヴィ・メタリックな速弾きギターとジャズ/フュージョン風ギターの掛け合いという一風変わった趣向が凝らされた、彼らのテクニカルな面を強く押し出した#3「Ratsbane」、「日本語に聴こえる英語(どちらにもちゃんと意味がある)」で歌われる#9「不思議な第3惑星」など、かなり凝った曲の多い、聴き応えのある作品である。個人的にはプログレッシヴなバッキングと爽快なサビメロのコントラストが気持ちいい#5「Rendezvous 60 microns'」や、これまたSF的な未来っぽい曲調とキャッチーなコーラスが印象的な#7「Lunatic Party」なんかも大好き。メンバー(じゃなかった構成員)の間では最高傑作に挙げる人(じゃなかった悪魔)も多い力作。まあ、正直全く悪魔っぽくはなくて、恐らくこの頃バンド・イメージやコンセプトが窮屈になりつつあった時期じゃないかな。

聖飢魔II
BIG TIME CHANGES
85
ビッグ・タイム・チェンジズ (1987)

ジェイル大橋(G)が脱退し、ルーク篁(G)が加入して制作された4作目のアルバム…じゃなかった大教典。前作でも楽曲のバラエティが増し、音楽性の変化の兆しが現れていたが、本作では従来の正統派HM路線から大幅な方向転換が図られている。その変化は当時全盛だったLAメタル調のアメリカンな#1「Rock N' Roll Prisoner」や、ヘヴィなグルーヴ感を押し出した#6のタイトル曲が象徴している。非常に完成度の高いHMチューンである#3「1999 Secret Object」や、疾走チューンの#5「破れぬ夢の中で」など、比較的これまでの正統派HM路線に近い方向性を持つ楽曲にしても、様式的な叙情性は減退している。強いて言えば悲壮感を漂わせるパワー・バラードの#7「Never Ending Darkness」には様式美の残香があるか。正直個人的にはあまり好ましくない方向転換であるが、クオリティが高いので結構楽しめた。前作より加入したゼノン石川(B)のフュージョン系スラッピング・ベースが炸裂する#2「Earth Eater」なんてカッコいいね。珍しくライデン湯沢(Dr)が作曲した#8「The Final Apocalypse」も、なんか半インストみたいな不思議な曲だけど、結構好きです。エース清水(G)が歌う砂糖菓子のように甘く切ないバラード#10「Angel Smile」はエンディングで冗談めかしつつ、確実に後のヒット・バラード「白い奇蹟」への布石となった一曲だと思う。

聖飢魔II
地獄より愛をこめて
89
From Hell With Love (1986)

前作までは、デビューに際して郷里山口で教職に就くことを選んで脱退したダミアン浜田(G)が作曲した楽曲が大半を占めていたが、彼の残した楽曲ストックもほぼ底を尽き、現行のメンバーであるジェイル大橋(G)とデーモン小暮(Vo)が中心となって制作された3作目。作り手が変わったため、これまではほぼ様式系正統派ヘヴィ・メタルに絞られていた楽曲の方向性が多様化しているが、相変わらずその質は高く、バンドとしてのポテンシャルには舌を巻かざるを得ない。RAINBOWの「Kill The King」(ライヴ・バージョン)を思わせる#1「Death Land」からソリッドなギター・リフがカッコいい#2「Aphrodite」、同じ早稲田出身である爆風スランプのサンプラザ中野(Vo)が参加したミステリアスな曲調とスリリングな中間部が劇的な#3「モアイ」、そしてキャッチー&メロディアスでシングルとなった#4「EL・DO・RA・DO」や#7「アダムの林檎」など、今回も秀曲揃いである。中でも、「ダンサブル」という、およそヘヴィ・メタルとは無縁な要素を見事に正統的なヘヴィ・メタル・サウンドと融合させた#6「魔界舞曲」や、ニュー・ミュージック(当時J-POPはこう呼ばれていた)かと思うほどポップな#8「秘密の花園」など、新境地といえる楽曲も優れた出来で、聴き手を飽きさせない。ドラマティックなタイトル曲も素晴らしい。アルバムとしての統一感では前作に一歩譲るものの、楽曲のクオリティという意味では勝るとも劣らない、これまた名盤である。

聖飢魔II
THE END OF THE CENTURY
90
ジ・エンド・オブ・ザ・センチュリー (1986)

ライヴ(彼らの用語ではミサ)のオープニング曲として定番である荘厳なインスト「創世紀」で幕を開け、ある意味バンド名を冠した、といえる高速チューン「The End Of The Century」になだれ込むオープニングの流れがスリリングなセカンド・アルバム。攻撃的なリフがカッコいい#3「Demon's Night」、クラシカルかつ荘厳な#4「悪魔の賛美歌」、ツイン・リードが冴える#5「Jack The Ripper」、彼らの代表曲といえる、キャッチーでありながらも充分にヘヴィ・メタルな有名曲、#6「蝋人形の館」、ヘヴィな#7「怪奇植物」、そしてアルバムの締めに相応しいエキサイティングな疾走チューン#8「Fire After Fire」と、名曲・佳曲がズラリそろっている。個々の楽曲の出来もさることながら、それらの楽曲をデーモン小暮(Vo)の芝居がかった「語り」がつなぎ、トータル・アルバムとして劇的な作品に仕上げている。あいかわらずBURRN!誌読者を中心とした「正統的な」メタル・ファンには「色物」として黙殺されたが、本作は日本のバンドが創造した様式系正統派ヘヴィ・メタルの最高傑作と言っても過言ではない名盤である。

聖飢魔II
悪魔が来たりてヘヴィメタる
85
AKUMAGA KITARITE HEAVY METAL (1985)

BURRN!誌のレビューで0点を獲得したことで有名な、早稲田大学フォークソングクラブ(WFS)出身バンド、聖飢魔IIのデビュー作。KISSばりの白塗りメイクにJUDAS PRIESTばりのスタッド・レザーという過激なコスチューム、邪悪でおどろおどろしいワードを多用した歌詞など、ヘヴィ・メタルの持つ悪魔的なイメージを極端にデフォルメしたスタイルがヘヴィ・メタルに対する「冒涜」と映ったことが「0点」の原因であり、実際意図的に「笑い」を意識した箇所も歌詞の面では見られるのだが、音楽的には非常にピュアで正統的なヘヴィ・メタルである。JUDAS PRIESTやIRON MAIDENのファンであれば、イントロである#1「魔王凱旋」から劇的なスピード・チューン#2「地獄の皇太子」の流れでグッと来るはずである。#5「悪魔組曲」も各パート非常にカッコよく、Voであるデーモン小暮が逆立ちして歌う「天地逆転唱法」など、ユニークなライヴ・パフォーマンスと一体化した一大劇的メタル・エンターテインメント大作である。曲数が少ないのが物足りないが、非常に高品質の正統派HM作品。なお、当時まだデビューにあたっての構成員(メンバー)が流動的であったため、本作では当時同じ事務所に所属していたフュージョン・グループPRISMのメンバーが演奏を担当したといわれている。

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