ANTHEM | ||
DOMESTIC BOOTY |
83
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ドメスティック・ブーティ (1992) |
とあるホームページでは、本作こそANTHEMの最高傑作だ、と評していた。このバンドの代表作は一般に「BOUND TO BREAK」もしくは「HUNTING TIME」と言われることが多いし、個人的にもその通りだと思うが、彼らに思い入れの強いファンほど一般的な評価とは異なるアルバムをフェイバリットに挙げることが多い。それは彼らのアルバムに駄作が存在しないことを証明する事実と言えよう。前作のツアーから加入した中間英明(元HURRY SCARY)は、ライヴにおけるギター・ヒーロー的な振る舞いが他のメンバーの不興を買い、また、中間としても望んでいた海外進出がANTHEMでは実現できそうもないと感じ、結局アルバムに参加することなく脱退。中間の後任として弱冠20歳の無名の新鋭、清水昭男が加入して制作されたのが本作である。清水のギターはテクニカルで洗練されているが、反面線が細く、正直ANTHEMのようなパワー・メタル志向のバンドに適したプレイヤーとは言いがたい。とはいえ、ストロングな#1「Venom Strike」、フックの強い佳曲#3「Gold & Diamonds」、ゲストであるドン・エイリー(Key)の弾く荘厳な序曲#6に導かれる哀愁の#7「Cry In The Night」など、楽曲は充実している。しかし、当時全世界的にHR/HMの人気は凋落しており、彼らも本作をもって一旦バンドの歴史に幕を下ろすことになる。ANTHEM史上最もドラマティックな#11「Silent Cross」が、ラスト・アルバムの幕切れに相応しい…。 |
ANTHEM | ||
NO SMOKE WITHOUT FIRE |
82
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ノー・スモーク・ウィズアウト・ファイヤー (1990) |
私の知人はこのアルバムをANTHEMで一番好きなアルバムだと言っていた。本作のタイトルは「火のない所に煙は立たず」という古くからある諺だが、それは本作発表前に表明された福田洋也(G)脱退という事件を意味しているのだろう。バンド内が不安定な状態で制作された作品だが、オーソドックスながら充分にエッジの効いたリフと、森川の力強いVoのコンビネーションによるデビュー以来基本的には変わりない黄金のANTHEM節が展開されている。硬質で重心の低い、パワー・メタル然としたサウンドはまさに「男らしい」という表現がピッタリで、文句なしにカッコいい。ただ、当時セールスの伸び悩みを感じていたためか、キャッチーな楽曲が増えているのも事実。#2のサビなどは非常にメロディアスだし、シングル・カットされた#5もかなりキャッチーな哀愁系の歌メロが印象的。そしてそのカップリングとなった#7なんてまるでアメリカのメインストリームなHR/HMのよう。この「ポップな」シングルを気に入ってアルバムを買った人が、アルバムの大半を占める無骨なメタル・チューンを聴いてどう思うのか考えなかったんでしょうか。このバンドに売れ線への色目は似合わない。ドン・エイリー(元RAINBOW他)がゲスト参加。 |
ANTHEM | ||
HUNTING TIME |
85
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ハンティング・タイム (1989) |
森川のパワフルなヴォーカルを最大限に活用し、これまでで最高の演奏の音圧をもとに、「究極のANTHEM流パワー・メタル・サウンド」を具現化した1枚。レコーディング中に森川が喉を潰し、少しでも速く声を復活させるために、制作の打ち合わせは筆談で行なった…という凄絶なエピソードが物語る通りの、鬼気迫る強力なアルバムとなっている。オープニングを飾る「Juggler」から全開だが、何と言っても超名曲の#2「Hunting Time」に尽きる。森川アンセムの最高傑作というべきこの曲のスリリングさは筆舌に尽くしがたく、何度聴いてもギター・ソロでは鳥肌が立つ。その他の曲もスキのない仕上がりで、欧米の一線級のメタル・バンドと比較しても遜色なく、完成度から言えばバンド史上最高の一作と言っても過言ではない。ただ、流石に欧米の一線級のメタル・バンドの中にあってなお際立つとまでは言えず、逆にジャパメタらしさが希薄な分、欧米のメタル・バンドとの差別化が困難になってしまったのは皮肉。そして何より、僕の考えるANTHEMらしさ、というのはこういう完璧なメタル・サウンドではなく、坂本英三の細いが、どうしようもなく熱いVoによる健気なまでにヒロイックなサウンドだったりする。完成度はこちらが上だが、僕は「BOUND TO BREAK」の方が好きです。 |
ANTHEM | ||
GYPSY WAYS |
84
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ジプシー・ウェイズ (1988) |
脱退した坂本英三に替わり、「沼津のグラハム・ボネット」と呼ばれていた森川之雄を新ヴォーカリストに迎えて制作された4作目のスタジオ・フル・アルバム。バンドの剛直な演奏にどうにか喰らいついていくのが精一杯、という風情だった英三のVoに比べ、バックの演奏とガップリ四つに組み、全く引けを取らない森川のVoの風格もあって、これまでよりヴォーカルに比重を置いた作品のように聴こえる(とはいえ、本作における森川の歌唱は前任の坂本の雰囲気を多少意識しているようにも聴こえる)。強力な「歌」を手に入れた結果か、直線的なパワー・メタルだった従来に比べ、個々の楽曲の表情と緩急が明確になり、結果としてオーソドックスなHR/HMへ接近。生真面目な彼ららしく、古典的/正統的なHR/HMファンであれば「こう来るだろう、こう来るべきだ」という予想通りに展開する楽曲を「気持ちいい」と捉えるか「意外性がない」と捉えるかで評価が分かれるかもしれないが、総じて楽曲の質は高い。特に#1、#2、#5、#6などはかなりの秀曲で、ライヴで盛り上がること必至の#8も良い。安定感と風格を増した代償として、坂本時代の美点であった「荒々しさ」や「ひたむきさ」が薄れてしまったように感じられるのは少し惜しいが。 |
ANTHEM | ||
BOUND TO BREAK |
85
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バウンド・トゥ・ブレイク (1987) |
第一期ANTHEMの最高傑作と言われるサード・アルバム。プロデューサーにTHIN LIZZYやJUDAS PRIESTなどを手掛けたブリティッシュHR/HM界の大御所クリス・タンガリーディスを迎えており、音質がグッと向上している。本作のコンセプトは「正義」だそうで、人によっては失笑モノかもしれないが、当時の彼らにはそれをふさわしいと思わせるようなストイックなムードが漂っていた。コンセプトゆえか、曲によってはアニソンめいて聴こえなくもない(だがそれがいい)。義憤に満ちた剛直で切迫感に満ちたサウンドは、全力投球感にあふれていて、とてもすがすがしい。速い曲からミドルの曲まで、テンポに違いはあれど、込められた想いはひとつ。その良い意味で肩に力の入った姿は、不器用ではあるが、美しい。80年代の日本には、まだこういう「男の美学」が生きていたんだ…と、妙な感慨さえ覚えてしまう。この世界に入れ込めない人にとっては一本調子なパワー・メタル・アルバムに過ぎないかもしれないが、わからない奴は去れ!と言ってやりたいね。このアツさ、テンションは、坂本英三の余裕皆無のVoであればこそ。80年代ジャパニーズ・メタルを代表する名盤の一枚である。 |
ANTHEM | ||
TIGHTROPE |
79
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タイトロープ (1986) |
初期からのファンの間で、かなり熱い思い入れを持っている人が多い一枚。よりハード&ヘヴィに、そしてよりフックと勢いを増した楽曲、それを支えるパワフルな演奏、何より前作から飛躍的な成長を遂げた坂本英三の熱い歌唱に心燃える。冒頭#1の「Victim In Your Eyes」からヤケクソ寸前の全力疾走。熱い熱い。同曲に代表されるようなパワー・メタル的とも言えるアグレッシヴな勢いがアルバムの大勢を占める中、#2「Night After Night」のようにキャッチーな哀愁のメロディに心惹かれるジャパメタならではの名曲や、#4「Tightrope Dancer」のような、男臭くドライヴしつつもキャッチーさを備えた佳曲の存在がキラリと光っており、こうした人気曲を収録していることがこのアルバムの人気につながっているのだろう。ただ、あえて指摘するなら、成長したとは言え、やはり坂本英三のVoは世界レベルとは言いがたいし、サウンドも軽い上に分離が悪く、(メンバーも不満だったようだが)今ひとつ。しかし、この荒々しい勢いと、ひたむきさこそがANTHEMの魅力であり、真骨頂であると言えよう。 |
ANTHEM | ||
ANTHEM |
74
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アンセム (1985) |
LOUDNESS、EARTHSHAKER、44MAGNUM…と、関西出身のバンドばかりが目立っていたジャパニーズ・メタル・シーンに現れた、東京出身の本格HR/HMバンド、ANTHEMのデビュー・アルバム。NWOBHMに日本的なフィーリングを加えたような方向性は非常に好ましいのだが、正直演奏も「練習した感」はよく伝わってくるが、プロフェッショナルとは言いがたいし、楽曲もフック不足、サウンドもイマイチ…というのが正直な所で、音楽的に高い評価は難しい。特に、メジャー・デビュー直前に長らくフロントマンを務めてきたトニー前田が脱退してしまったため、急遽オーディションで獲得した坂本英三のVoが相当に素人臭く、B級な印象を決定的なものにしてしまっている。とはいえ、初期の代表曲である#1「Wild Anthem」に端的に現れている「ひたむきさ」とでも表現すべき魅力は充分に感じられ、なかなか愛着を持てる作品ではある。とりあえず、ここまでヘヴィ・メタル然としたバンドが日本のメジャーに浮上してきた、という歴史的意義を評価するべきか。 |
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